落葉松自転車商会

Larix Bicycles

乗鞍・畳平にビーチクルーザーは立てるか?

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日本で最も高い場所へ自転車で行ける場所はどこでしょうか?
北アルプスの南部にそびえる乗鞍岳へのアプローチルート、長野県道84号乗鞍岳線乗鞍エコーラインの頂上、畳平(標高2702m)の手前の県境のところであります。
あまり説明は要りませんね。マイカー規制となる三本滝駐車場から畳平までは標高差900m余り、距離約13km。中腹の位ヶ原山荘からはハイマツやナナカマドが織りなす森林限界の景色を楽しめることから、走って損はないルート、満足度の高いルートとして大変人気があります。
毎年夏に全日本マウンテンサイクリング in 乗鞍というヒルクライムレースが行われ、坂バカたちの聖地となっております。

今回は、アメリカ生まれのイカした自転車「ビーチクルーザー」で挑みました。

 

◆Spec of Electra Cruiser 1

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創業者のジャノとベノが携わっていた2010年モデルのエレクトラで、最もシンプルなシングルスピード、後輪コースターブレーキのクルーザー1
フロント44Tのリヤ22Tのギヤレシオは2.0。クランク1回転につき後輪が2回転します。それしかありませんからどうにもなりません。タイヤはIRCのLovers Soul 26HE×2.125を最大の4気圧で設定。重量は15kgは超えてしまうはず…。大ぶりなクルーザーハンドルも相まって、とてもヒルクライムなんですべき自転車じゃあありません!
しかし、だからこそ登ってみたいじゃあないですか!こいつで!
MTBの父、ゲイリーフィッシャーはクルーザーを改造したクランカーで野山を駆けた!ならば私も乗鞍に挑まねばならぬ!
そうして三本滝駐車場に来てしまったのです。

◆いざ、推して参る!
クルマを停め、輪行を解いて組み立てにかかります。タクシードライバーのおじさんが話しかけてくれました。クルーザーに興味をもったらしく、試乗もしていただけました(笑) 意外にもこれで登るということには気に留めず…。

7:50頃やおら出発です。ゆるゆるとスキー場のゲレンデ沿いをスタートです。少し勾配がつくとやはりツラい…。まぁまだ序の口も序の口ですから様子を見つつ行きます。

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15分くらい走って、サドルを上げることに。カッコ重視でサドルを下げて乗っていましたが、さすがにペダリングしにくくてシッティングで全く進まないのです。ポジション大事!
登ってるとさすがに汗ばむもので、ボトルもハイペースに減っていきます。

 

◆冷泉小屋まで登れたら

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三本滝から登りますと、途中にある冷泉小屋の手前のつづら折りが勾配のキツい難所と言えます。多段ギヤならシフトダウンで軽くしてゆるゆる登っていけばいいのですが、シングルスピードなのでとにかく何が何でも踏むしかありません。タイトな左コーナーでは勾配の酷いインを走らざるを得ないので、時折クランクの上死点からもう踏み込めないんじゃないかという場面が訪れます。横に広がったハンドルが上体の力を逃してしまうがゆえに踏ん張りづらく、それでもペダルに体重をかけて坂をねじ伏せます。
これはさすがに予想していた状態ではあったので、冷泉小屋まで辿りつけなかったら敗退と考えていました。

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が、1時間弱で冷泉小屋に着いているではありませんか。以前650Aツーリング車のフェデラルで登った時と余り変わらないタイムに驚き。ギヤ比はよっぽどの急勾配でない限り問題無いですし、存外ちゃんと登れる自転車なのかもしれません。

 

◆標高2000mを超えて

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位ヶ原山荘までくれば、ご褒美の絶景が待っています。心なしか勾配もキツく感じなくなり、ビーチクルーザーでも軽快にペダルを回せるようになってきました。やっと顔を抜ける風を感じるように。

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霧が上がってきて遠くの景色はいまいちでしたが、ハイマツの合間に紅葉し始めたナナカマドが目を楽しませてくれます。特にタイムアタックしているわけでないのであれば、この標高をを走れるルートはなかなか無いので、時折止まりつつのんびりと楽しむことをオススメします。

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後日紅葉が進んだ頃に再び登った時の写真ですが、「コーナーのたびに感動が待っている」そんなキャッチコピーも過言ではないほどの絶景があります。
そんな景色に目を奪われがちですが、バスやタクシーも通りますし、写真撮影されている方も多いので、通行の妨げにならぬよう止まるときは注意したいですね。

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毎年万年雪の残る大雪渓のあたりからは、頂上剣ヶ峰がとにかくデカい!
今年に限っては暖冬の影響で猫の額ほどの大雪渓でありましたが。

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赤錆色の岩が続く法面とデッキのようになった道、こんな景色に自転車で走れている!そのことに感激があります。
稜線に道のラインが消えていくのが見えたら、もうすぐ頂上です。

 

◆Mission Accomplished

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2時間30分ほどで最高地点である岐阜県境に到着!以前650Aのツーリング車で登ったときと余り変わらないタイムなのでビックリ。いや、たぶんツーリング車で登った時が遅いんだと思います(汗)
さて、最高地点であるココは峠のような地形ではあるのですが、特段名前がないのです。信州と飛騨を結ぶ峠というと安房峠となり、そもそもこんなに高いところを通ることもなかったのでしょう。

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緩やかな坂を下り、バスターミナルのある畳平へ。
子供の頃、まだマイカー規制のなかった頃に連れてってもらった覚えがある懐かしい場所でもあったりします。弟の麦わら帽子風で飛ばしちゃって泣いた場所だったり(笑)
約20年後、そんなところへビーチクルーザーで登ってきちゃうおバカさんになってしまいました。どうしましょう。

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登っている途中では全く抜かれなかったのですが、畳平にはロードバイクで上がってきた方ががちらほら。
「え?これで登ってきたんですか?」というような驚嘆の嵐。登山で来ていた方には「感動しました!」と言われる始末。悪い気はしませんね(笑)
ビーチクルーザーで本当に登ってよかった!

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そんなこんなで、乗鞍・畳平にビーチクルーザーは登頂できました!

日本で自転車で登れる最高地点にビーチクルーザーで登頂した記録保持者はおそらく私です。挑戦者求む(笑)

 


◆God Bless you ! 視線は上向きで
さすが標高2702m地点はガスってきて寒い!ダウンとウィンドブレーカーを着こみ、体温低下しないようにします。

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腹も減ったのでレストハウスでカレーを頂きました。

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土産物の日本百名山ののれんを買い、下山します。

このクルーザーは後輪がコースターブレーキとなっており、ペダルを逆回転するとハブ内のブレーキ機構が働く仕組みとなっています。重心が低く、後傾したポジションから下りでの安定感があるので、目線を上向きに軽快に走ることが出来る自転車なのです。

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つまり、乗鞍の下りをクルーザーで下れば楽しかろう!そう企んだわけです。

予想通りこれが楽しい!気分は映画「大脱走」のバイクで牧場を駆けるシーンそのもの。水牛のように鈍重だったクルーザーが駿馬のように下っていくのです。
っと書いてますが、そんなにスピードは出てません(笑)
そもそも各所のフリクションが大きく、そんなにスピードが出る自転車じゃないので、フロントのキャリパーブレーキとコースターを併せれば十分に制御できます。

特に後輪は脚でブレーキをかけるので、手がかじかんでブレーキに力が入らないなんてこともありません。
っとおもっていたのですが…。なんかかけているはずのコースターブレーキがフッと抜ける場面がたまに。

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前輪ブレーキも併用しているので、最後まで完全に制動力を失うことはありませんでしたが、下山してきて後輪を見たら、コースターハブからグリスが散ってました(汗)
想定外のことなんでしょう。"ビーチ"クルーザーって書いてありますから。

 

一つ今回のチャレンジで悔いがあるとすれば、下山後に寄ったサイクルカフェのお客さんに言われた「ハリボテのサーフボードを持っていけばよかったのに」ということですね。

また登れですか?もう勘弁して下さい(笑)

 

結論。
良い子は真似しないように。

もうしません。