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MTLの秘境・大鹿村探訪ポタリング

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 大鹿村のネコはノミが付かない…
本当かどうかはさておいて、この逸話だけでもただの山奥の村ではないことがわかります。

村の中心を日本最大の断層線「中央構造線(Median Tectonic Line)」が走り、村歌舞伎や海水並みの塩分濃度を誇る温泉など非常にエキゾチックな処でありまして、かねてより訪れたいと思っていました。
そんなわけで狭路激坂の難所・分杭峠を越えて、長野県の南部、下伊那郡大鹿村へサイクリングに出かけました。

 ◆スタート〜秋葉街道を南下〜

大鹿村へ至るルートは、北から秋葉街道 国道152号線を分杭峠を越えて入るか、西に接する中川村から県道59号松川インター大鹿線を走り、小渋ダムを経て入るか、南から国道152号線地蔵峠を越えて入るかの3つしかありません。

前夜に思いついたコースは、分杭峠の登り口である長谷市野瀬地区にクルマをデポして、秋葉街道をピストンするというものでした。
膝を壊して久しく長距離は走っていなかったので、小渋経由で伊那谷を帰ってくるルートは距離が長くちょっと不安があり、何故か分杭峠を2回登らなくてはならないルートをチョイス。もう何を考えているのか自分でもよくわかりませんw

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朝6:00に道の駅 南アルプス村を出発。国道152号線 秋葉街道を南下していきます。赤い橋は南アルプス北部の玄関口である戸台へ至る丁字路の三峰川橋。
15分ほどで分杭峠へ至る粟沢川と三峰川本流とに別れるところの市野瀬集落に到着。
旧伊那里小学校の脇にある湧き水でボトルを補給します。ココの水は冷たくて美味いと地元で評判だとか。
市野瀬郵便局の裏手にネコがいました。コイツは長谷のネコなので、ノミをくっつけているのでしょう。

 

◆市野瀬集落からいよいよ登り基調に

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市野瀬集落は小ぢんまりとはしていますが、JAや円通禅寺、諏訪神社があり長谷村南部の中心地といった感じ。旧秋葉街道沿いには宿だった建物もあり、現代のような高速交通が発達していなかった時代の面影があります。バス停にはその昔1993年まで国道256号線だった当時のものが。
粟沢掘抜橋からいよいよ登坂が始まります。前夜にそこかしこを蚊に食われたおかげで、痒いったらありゃしないw

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分杭峠のゼロ磁場の水の販売所を過ぎると人家はなくなり、いよいよ峠道の登りが始まります。粟沢川沿いに一本道がしばらく続きます。おそらくシカ由来の獣臭がするので時折ベルを鳴らしつつ、濃い緑色の中ゆっくりペースを崩さず進みます。
この道は、途中の中沢峠まで2回ヘアピンがあるだけなので、行程がどのくらい進んだかはGPSが無くてもわかりやすいです。

道脇に生えたヨツバヒヨドリの花にアサギマダラが蜜を吸いに飛来しておりました。日本列島から台湾に至るまで千キロ余りを飛行する彼らは小さなブルベライダーとも言えるかもしれません。さわやかな浅葱色に癒やされました。
2回めのヘアピンのあたりから道幅が狭い区間が続き、対向車や追い抜きの車両に注意が必要です。無理せず軽いギヤにして、すぐ止まれる準備をしましょう。10%勾配の標識も出てきますが、そんなに区間は長くなく、急な上りの後ゆるいトラバースが来るような感じで、思ってたよりやさしいです。

 

◆分杭峠を初攻略!いよいよ大鹿村

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途中にある中沢峠。

ここから県道49号駒ヶ根長谷線を西に降りると駒ヶ根市中沢へと至る。途中、県道210号西伊那線を北上すれば新山峠を経て高遠へ、南下すれば折草峠を越えて中川村四徳へとバリエーションが豊富なルートです。この西伊那線は天竜川の東側である竜東地区しか通らないのに西伊那線なんですが何故でしょう。(ヒント:県道の名前は始点と終点の地名を合わせたものが多い。)

ここで読図術の実地練習をされている一団と会いました。

 

道の駅を出発して約1時間半で分杭峠(標高1420m)に到着。南北に真っ直ぐ伸びる中央構造線(MTL)の谷。ちなみにこの谷の北端にあたる守屋山から南を見ると同じような眺めです。

「従寄北 高遠領」との石柱の通り、分杭峠の名は高遠藩と天領との境を定めたところから来ています。ちなみに国道153号線 三州街道の駒ヶ根市と宮田村の境にある大田切川の橋にも同じような石柱があります。

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いよいよ大鹿村です!なぜか大鹿村の中心までの距離表示がありません。

 

◆秋葉街道沿いの興味をそそるあれこれ

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峠を下って行くと程なく、「矢立の木」があります。推定樹齢500年の極太なサワラは、戦国時代後期遠山郷を治めていた遠山一族が弓術の修練の場としていたとか。
すぐ前でを秋葉街道の古道が通っています。結構しっかりした古道です。

さらに南下すると、中央構造線が見られる「北川露頭」があります。左(西)の褐色の層が内帯である領家変成帯の花崗岩と、右(東)のねずみ色の層が三波川変成帯の緑色片岩の間を明るい褐色の中央構造線が分けています。この国の地質を大きく分けている正にその場所に立っていると思うと感慨が大きいです。ちなみに国の天然記念物で岩石の採取は違法になりますヨ。

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大鹿村側の峠道は比較的緩やかです。15kmほど降りると人里が見えてきます。
大鹿村北部の栄えてるところ鹿塩地区に来ました。通行止めとありますが、橋がないのでホントに通れませんね。
村役場のところが、ちょうど小渋川が天竜川へ流れ抜ける入り口になっており、平行する県道22号松川大鹿線のトンネルの口がこちらに向いています。タダでは伊那谷に抜けさせないぞという気迫が感じられます。よくもまあ小渋川もこんな狭い出口を見つけたもんです。

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村役場近くにある珍しい「ヘリ注意」の標識。

セメントの骨材工場をバックに一枚。

沿道の景色も山奥にしては飽きさせません。今日の折返し地点の大河原地区が近づいてきました。

 

◆歌舞伎舞台のある大磧神社、小渋橋、MTLM…大鹿村に来たら訪れたいスポット

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大鹿村には約300年前から続く村歌舞伎が有名です。春と秋の年2回行われる定期公演の内、春の公演が行われる大河原地区の大磧神社に来てみました。
小渋川の河原を見下ろす小高い尾根の上にある神社で、大きな神社ではありませんが立派な舞台と石段の観客席があります。やたらと低い注連縄をくぐって参拝しましょう。建御名方神を祀る諏訪系の神社なので、この春に建てた御柱もありました。奉納額には日露戦争時のも。

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中央構造線博物館の開館が9:30からということで、それまでの間あたりを散策。
おなかがすいたので、旧秋葉街道が通る大磧神社近くの商店が集まる一角に来ました。
ここで菓子パンとコーヒーを補給。自動ドアでないものの、人が来るとセンサーが触れて、住居部分にいるおばあちゃんにチャイムで知らせるというハイテク装備を持った商店でした。峠越えの後ですので大概のものは美味いのです。

3軒ほどの商店街を抜けて坂を下ると、なんとも旅情あるローゼ桁の美しい橋に来ました。1957年に竣工した小渋橋です。東に見やると赤石岳が美しいとのことでしたが、この日は梅雨らしい曇り空しか見えませんでした。見える人には見えるのか、河原で赤石岳の方向に五体投地っぽいことをしてる方がいらっしゃいましたが。

 

さてお目当ての中央構造線博物館(MTLM)!
前庭には石がゴロゴロ。バックの大西山の崩壊もすさまじい景観となっております。

中央構造線と村内から産出される岩石の紹介や三六水害にまつわる砂防の展示、断層地震の展示と3つのフロアで構成されており、学芸員さんの解説もわかりやすく、ちょっと地質にも興味が湧いてしまいました。
入館料も隣接する郷土資料館と合わせて500円とお得。ちょっとここでは紹介し尽くせないほど奥が深そうなので、ぜひ行ってみてください!

 

◆シカ喰うやつ

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国道152号線の新小渋橋から北を見やると、「ディア・イーター」と迫力のある看板がどうにも目に入ります。
ここは2011年公開の映画「大鹿村騒動記」の撮影で実際に使われたセットの食堂を、そのまま使い営業しているというお店。看板の通り鹿肉を使った料理が売りです。
11時前とまだ営業時間前なはずが、営業中とあったので訪ねるとご飯を用意して頂けるとのことなので入店。朝が早かったのでもう腹が減ってしまっていたのです。
店内に入るとまず、劇中で俳優の原田芳雄さんが実際に着たツナギの衣装のマネキンでびっくりします。メニューには様々なシカ肉料理が並び、なかなか魅力的な空間です。
鹿肉カレー(900円)を注文。サラダと大鹿村さんの冷奴がつきます。しっかり煮こまれた鹿肉の力強い味がカレーに負けておらず美味い!おまけにこの豆腐が旨い。
腹も心もしっかり満たされました。

 

◆あ、しょっぱい…海水とほぼおんなじ塩分濃度の鹿塩温泉

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大河原地区から再び鹿塩地区に戻ってまいりました。

勘の良い方はお気づきでしょうが、大鹿村とは大河原村と鹿塩村が合併して出来た村なんですね。しかも一度分割しているそうです。

さて、次の目的地は山の中で珍しい塩っぱい温泉である「鹿塩温泉」です。
明治37年創業の趣あるお宿「塩湯荘」へ行ってみました。入湯料は600円、基本は旅館なので日帰り入浴の際は電話で確認を。

確かに塩っぱいのです。虫さされのと日焼けにムチャクチャ滲みます!

塩湯荘の向かいには「黒部の洞穴」という坑道があります。これは明治時代、岩塩が産出すると信じた黒部銑次郎らによるもの。実際岩塩は存在しなかったのですが、しっかりとした造りの坑道に、当時の気運がうかがい知れます。先が暗くておっかないので奥へは進みませんでしたが、しばらく過ごしたいほどひんやりして気持ちが良かったです。

現在でも塩っぱい温泉を使った製塩が行われていて、川を渡す簡易架線が作られた先に製塩窯がありました。

秋葉街道はその昔に海から山国の信州に貴重な塩を運ぶ「塩の道」だったわけですが、なんとその途中に塩が作れるところがあったんですね(当時製塩技術が大鹿にあったのかは不明)!うーむ、面白い!

温泉でしっかりほぐれたところではありますが、これから2回めの分杭越えが待ってます。

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食堂とおみやげ屋がある「塩の里」へ寄りました。風呂あがりに山塩アイス!

甘みが塩で引き立って美味しかったです。塩分補給に塩飴を購入。
村民同士の掲示板も面白く、人口1000人余と小さな村ですが、とれたてのブルーベリーを入荷しに来た親子がいたり、なかなか個性が光るタダでは潰れない村な気がします。

 

◆2回めの分杭峠

午後になり、いよいよ日差しが殺人的になってきました。来た道を戻るので、なからどこがしんどいか把握しているつもりだったのですが、この暑さは予想以上に堪えました。
どうあがいてもゆっくりにしか進めないので、いつか着くべ!とペダルを回します。
下ってて気付かなかったことも多く、鹿塩川の上流部に光源寺という山寺があったそうです。


いよいよボトルの水も少なくなってきました。やばい。

法面に水場はないか探していると、日頃の行いが良いんでしょうねぇ、山肌から延びる鉄パイプ!キンと冷たい沢水で生き返りました。

すれ違う観光客に応援して頂いて、なんとか2回めの分杭峠を攻略!

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やったぜ!眼下に長谷の谷が広がります。吹き抜ける風が、1日で2回目のアホな頑張りを労ってくれました。

転倒や衝突に気をつけつつ、峠道をスカーッとおりて、今回のポタリングを無事に終了。いいポタでした!

 

◆知らないところを探索するには自転車が一番

特に田舎だと、観光スポットが点々と離れてたりします。

おまけに途中のディープな魅力はクルマの速度じゃ気付けないのです。
歩きより行動範囲が広く、自動車よりじっくり見れる。自転車はそんな街や村を探索するにはもってこいの乗り物なのです。


さぁ自転車で知らない街の景色を探してみましょう。